97/10/22

はじめに
PROLOG
ちょっと小説風に


緊張のせいか前夜は1時間おきに目が覚めた。パリとウィーンには一人で行ったことがあるが、旅先の宿を(ほとんど)決めずに旅行するのは、今回が始めてなのだ。
ヒースローで乗り換えるとき、入国カードを書くことさえ知らなくて、係員に注意された。イギリスは通過するだけだからと思っていたら甘かった。アイルランドでの住所まで書かなければならないのだが、正直に「決まっていない」と言ったら面倒なことになりそうで、『地球の歩き方アイルランド編』に載っていたホテルの住所を書いてしまった。どうせ、チケットにもミセス○○とかって嘘が書いてあるんだからいいんだ。わたしのせいじゃない。デュッセルドルフの旅行社が勝手にミセスにしてしまったんだ。
思えばあの旅行社では失敗だった。日本人のための旅行社だから、日本語でチケットを手配してもらえると思って出掛けていったのに、あいにく日本人スタッフは手いっぱいで、ドイツ人のお兄さんに「よかったらわたしが聞きますけど?」と英語で言われたのだ。あのとき、「いえ、待ってます」と言えばよかったものを、「いやぁ、わたし英語へただから」とケンソンしたら、「大丈夫、とても上手ですよ、さぁどうぞ」と切り返され、結果しどろもどろで大汗をかきながらチケットとホテルの手配をする羽目になってしまった。
もっと遡れば、一緒に行くはずだった友達が二人とも相次いで都合が悪くなったところから、もう出だしでつまづいていた。一時はデュッセルドルフで大人しくしていようかと思ったのだが、気が小さいくせに、せっかくのチャンスを棒に振るのが癪で、えいっとばかりに出掛けてきてしまったのだ。
審査の列に並んでいると、さっきカードを書くように指示した係員が、「ホリデーか?」と聞く。「イエース」と答えるわたし。もう何ヶ月も前からロング・バケーションなのだが、そんなことはヒミツ。望んだ一人旅ではないが、これから2週間、アイルランドとイングランドを楽しまなければ。
 ・
 ・
 ・
エア・リンガス153便は、ダブリン空港への着陸体制を整える。ヒースローから1時間以上しゃべり続けていた隣の男女はようやく静かになった。窓の外には不安な気持ちをかきたてるような曇り空の下、緑の大地が広がっている。

地図へ次へたび日記目次へ新御芳名帳ホームページに戻る


メールはhimemaru@norakura.comまでお願いします!