97/11/12作成
98/01/07更新
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▼由緒あるホテル?
▼史上最低の夕食
▼いきなり山登り
▼ピーターラビットとワタシ
8月15日 金曜日続き
列車は快調に走り出した。今度も飲み物の注文をとりに来たので、「紅茶ちょうだい」というと、ポットでリーフティーが運ばれてきたが、前回(8月13日)と違って65ペンスとられた。前回はお兄さんがおごってくれたのだろうか?
15:25、順調に湖水地方の入口オクスンホルムへ到着。すぐにウィンダミア行きに乗り換える。さすがに観光地、日本人が沢山いるが、会話をよく聞くと中国人、韓国人も多い。アジアン・パワーだ。16:00ウィンダミア到着後、駅の隣のインフォメーションでアンブルサイドの地図を買い、バスに飛び乗る。
今日のホテルはデュッセルドルフであらかじめ予約してあったところ。「ほとんどの部屋から湖が見える抜群のロケーション、フレンドリーなおもてなしとおいしいお食事」っていうキャッチコピーが期待させる。しかし、実際に着いてみると、なんだか予想していた感じと違う。ポーターなんて気のきいた人はいないし、リフトさえもないので自分で階段を使って荷物を運ばねばならない。
あてがわれた部屋はそこそこ広いが、窓はなんと道路に面していて、山の方から降りてくる人から中が丸見えだ。「あぁ、このホテルの少数派の部屋に当たってしまったんだなぁ」と思いつつ窓のそばに近寄ると、なんと窓枠の外側には鳩のフンが盛り上がっているではないか。部屋に入ったときからなんとなく妙なにおいがしていたのだが、原因はこれだったのだ。
それでも気を取り直し、ディナーのメニューを見て20:00にホテルのレストランに予約を入れ、まだ早いので散歩に出掛けた。ここはアンブルサイドの南の外れに位置するウォーターヘッドという場所で、ウィンダミア湖を行き来するフェリー乗り場もすぐ近くにあり、なかなか良いロケーションだ。インフォメーションセンターで聞くと、アンブルサイドの町の中心まで15分ぐらいだと言うので、歩いていくことにする。途中、脇道に「パブリックフットパス」の表示を見つけたのでさっそくわけ入ってみる。途中犬の散歩をさせていた人とすれ違う。道は小高い場所に通じていた。眼下に湖が見渡せ、大変気持ちが良い。ただし、コットンパンツには草の染みが付いてしまった。
アンブルサイドは緑がかった黒い石で出来た家が多い。観光客も多く、テラスでお茶(ビール?)している。湖水地方らしく、ピーターラビットの店などもあり、17:00をまわっているのにお土産店が開いているところなどは、さすが観光地である。
ぶらぶらしながらまたウォーターヘッドに戻り、シャワーを浴びて着替えた。なんと言ってもこのためだけにワンピースとパンプスを持ってきたのだし、ここのところまともな夕食を食べていないので自然と気合いが入る。鏡の前で念入りにチェックして、20時5分前にレストランに降りていった。この旅行中最悪の体験はここから始まった。
受付には誰もいない。「こんばんわ」と声をかけるとようやく奥から陰気な雰囲気のウェイターが顔を出した。「8時に予約した○○ですが。」というと、アポイントリストをぱらぱらめくり、「おひとりですか?そこへどうぞ」と彼が指さしたのは受付のすぐ前、入口ドアのすぐ横の席。言われるままにいったん着席したものの、どうも釈然としない。出入口の脇のこんなところ、落ち着いて食べられやしない。店内はすいているし、もっと良い席がいくらでも空いている。
次にやって来たウェイトレスに、窓際の小さい丸いテーブルを指さして、「あそこは予約席ですか?」と聞いてみた。「違う」という返事だったので、「あそこと場所を替えて欲しいのですが」と頼んだら、露骨に嫌な顔をされた。なんなのだ?わたしはちゃんと予約しているし、横柄な態度もとっていない。たしかに女ひとりで食事に来るのは珍しいかもしれないけど、なにも悪いことはしていない。ちゃんとしたレストランなら、きちんと応対するべきだ。
こうなったらわたしも意地である。「替えてください」と頑張り、しかもいったん窓と窓の間の壁際のテーブルに座らせようとするのを「窓際がいいです」と押し通した。ようやく希望の座席に座れてほっとしていると、先程のウェイトレスが「何食べんの」と聞いてきた。「今日のお勧めコースを」と言うと、「だからぁ、いろいろ選ぶようになってんのよ、どうすんの」という感じで聞くのである(いや、わたしは英語へただけど、そういうニュアンスだけは解る)。それならメニューの項目と項目の間に「or」とかなんとか書いとけよ!と叫びたくなった。
とりあえず注文し終ったと思ったら、いきなり前菜が運ばれてきた。ちょっと待ってよ、飲み物もオーダーしていないのに。運んできた例の陰気なウェイターをつかまえて、「飲み物のリストを」というと、「ワインリストか」というので、めんどくさいので「そうだ」と答えてしまった。えーい、ひとりでも飲んでやる。
運ばれてきたワインリストをみて、ロワールの白ワインのハーフボトルを頼んだ。待っている間にテーブルの上のグラスを見ると、なんと前の人の使った跡がそのまんまだ。嫌なので遠くへ押しやる。しばらくしてウェイターが戻ってきて、「ご希望のワインはありません」と言う。んじゃ白ワインのハーフボトルであるのは何よ?とこちらもいらいらしてしまう。しばらくして彼はロートシルトと書かれたどっかの白ワインを持ってきて、「今はこれしかありません」と言う。値段も何も解らないが、もうあきらめてそれを飲むことにした。向こうへ押しやられていたワイングラスは、黙って持って行かれた。
その後、せっかく窓のそばに座ったというのに、後ろの席の人が「夕日が眩しい」と言ったらしく、件のウェイター氏が断りもなくさっさとカーテンを閉めてしまった。はっきり言って、ここのホテルでごはんを食べるのをすごーく楽しみにしていたのに、こんなのではがっかりだ。内装はともかく、かかっている音楽も安っぽいし、食事自体も、大したことはない。デザートにスターフルーツなんか使うヒマがあったら、もっと従業員に接客教育していただきたい。コーヒーがまぁおいしかったのは不幸中の幸いか。
レストランばかりではなく、部屋に戻っても、隣室の音がまるで自分の部屋の音のように聞こえるのでどうも落ち着かない。廊下を人が歩くと激しくきしむし、ドアの開閉の音も、自分の部屋のドアの音のようで、夜中、誰かが入ってきたのかと驚いて何度も飛び起きる羽目になった。どうも、予約していたホテルはどちらも失敗だったようだ。多少アクセスが悪くても、B&Bの方がましだとつくづく思った。
8月16日 土曜日
今日も晴れ。明け方はさすがに涼しかった。8:30に朝食。レストランに降りて行ったら、またドアの横に座らされた。もうあきらめる。信じられないが、昨日の陰気なウェイターが注文を取りにやって来た。一日中働かされてんの?メニューを見るとキッパーとかいろいろあるようだが、オーソドックスにイングリッシュブレックファストを頼んだ(つもりだった)。「卵はスクランブルエッグで」というと、「それだけか?」というので、そんなもの、朝から卵料理を何種類も食べられないだろう、と思いながら「それだけだ」と答えると、しばらくして運ばれてきたのは、本当にスクランブルエッグだけ。もう抗議する元気も出ない。常識で考えれば解るでしょうが。ほんとにもう。おまけに、「今夜もここで食事するのか」ときゃつは聞いてきた。「けっこうです」と答えたのは言うまでもない。こんなところで昨日のような思いをしながら食事をするぐらいなら、サルサヌードルでも部屋で食っていた方がましである。
9:30、フェリーに乗ってボウネスへ向かう。ウィンダミア湖の風景はさすがに美しい。いやな思いも洗い流されるようだ。フェリーのおっちゃんたちも親切だ。
ボウネスのインフォメーションで地図を見ているうちに、明日ロンドンへ帰るのが嫌になってきてしまった。やはり、北へ行こうと決め、カーライルへの行き方を教えてもらう。念願のハドリアンズ・ウォールを観るのだ。
今日のメインイベントはベアトリクス・ポターのゆかりの農場ヒルトップを訪ねること。バスもあるということだったが、時間が合わないので歩いていくことにする。
まず、ボウネスの渡し船の桟橋まですこし歩き、それから対岸に渡る渡し船(フェリー)に乗る。日本人カップルが一組いて、女の方が「あたしぃ、ガイドブックで読んだんだけどぉ」なんて話しているのがなんだか我慢できなくなり(昨日からキれまくり)、とっとと「こちらファーソーリー」と書いたパブリックフットパスに踏み込んだ。(実は、これが間違いの元だったのですが…)
道はどんどん坂道になって、ちょうど大文字山に登っているよう(またまた超ローカルな比喩ですみません)。うーん、なかなか険しいなと思ったところで、なにやら廃墟出現。教会の跡らしく、よく見るとナショナルトラストの看板が付いている。ヒルトップはナショナルトラスト運動発祥の地、にわかに元気づき、どんどん坂を登っていった。
小高い丘に登りきる手前のところで、上品な老夫婦が休んでいるところに会った。彼らもヒルトップへ行くところで、「この道であってるのかね?」と聞かれたが、わたしも今一つ自信がない。「そう信じて歩いてるけど、よくわかりません」と答えるしかなかった。「わたしらにはこの道はきつすぎるよ」と彼らは言って笑っていた。
丘に登りきると視界がひらけ、いかにもイギリスの丘陵地帯らしい風景が広がった。道沿いに標識があったので確認すると、とりあえずこの道を行けばファーソーリーへ行くようだ。目指すヒルトップはファーソーリーのさらに奥、ニアソーリーにある。老夫婦はまだ休んでいるのか、四方見渡すところ人間の姿はない。不思議と怖い感じはせず、高揚した気分でどんどん歩いていく。牧場はなんとなく甘いような変わった匂いが漂っている。干し草の香りってこういうのかなぁ、カモミールティーってこんな香りがするなぁ。そういえば、サイレンセスターの宿でYさんがわたしのセーターのことを「牧場の匂いがする」と笑ってたけど、ほんとにその通りだ。
ファーソーリーの村を過ぎたあたりで、日本人の女性と行きあった。言葉遣いが大阪弁なのがなんだかとても懐かしい。彼女に聞いた通り、ヒルトップのあたりは日本人がいっぱい。ツアーで観光バスを仕立ててやってくる人、レンタカーで家族連れでやってくる人…日本人だらけ。
そんな中、ヒルトップは絵本で見ていたのと寸分たがわない様子で建っていた。感激。来て良かった。家の前でかわりばんこに写真をとっている人も、やっぱりうれしいんだから、と自分を納得させる。しかし、こんなことを言ってはいけないのだろうが、日本人はこの風景にはあまり似合わないような気がする。自分も含めて。
内部に入る人数は限定されており、時間も指定されている。家の中はポターの絵本の中の光景があちこちに見られる。係員がいて、どんな質問でも自由に聞くと、いろいろ説明してくれる。ここにもウィリアム・モリスの壁紙の部屋があり、絵本にも登場する人形の家が飾られていた。ガイドブックが2種類あったが、一つは英語版、一つは日本語版だった。よっぽど日本人が多いんだろう。ガイドブックをみると、当時発売されていたピーターラビットの食器などの写真も載っている。キャラクターグッズのご先祖様のようなものか。
建物の中もいいけど、農場の風景も素敵だ。庭園は甘い香りでむせ返るようだ。ポターが好きだったというエスウェイト湖まで、歩いていくことにした。ここで、このピーターラビットの故郷で唯一のウサギを目撃した。道で車にひかれて死んでいたのだ。(合掌…。)
エスウェイト湖は絵本に出てくるジェレミー・フィッシャーが釣りをしていた湖。やはり釣りを楽しむ人がたくさんいたが、静かでなかなか良いところだった。しかし、座って休むところがなく、トイレも借りにくい雰囲気だったので、またヒルトップまで戻る。ここで、あの老夫婦と再会。無事到着し、ヒルトップの見学を終えたところのようだった。よかったよかった。
帰りは「こちらフェリー」の標識に従って歩いていくと、すんなりフェリー乗り場に戻れた。ここで初めて、来るときに道を間違っていたということに気付いた。
再び渡し船に乗ってボウネスに戻り、湖岸を歩く。何だかごちゃごちゃしていて、陽気な観光客であふれかえっていて、ざわざわしていて、日本の夏の海岸よりひどい。俗っぽくてちょっとがっかりだ。しかも、暑い。きっと、シーズンオフは静かな所に戻るのだろうが。
まだ日は高いのでグラスミアまでバスで行く。途中ダブ・コテージの横を通る。わたしは読んでないが、ワーズワースの好きな人にはたまらないところなのだろう。グラスミアのジンジャーブレッドというのが名物だと聞いて、お土産に購入。(帰国してから食べてみたけど、西洋おこしとでも申しましょうか、とても甘い食べ物でした。温めると紅茶にぴったり。)ここは静かで良かったが、バスの便が少なく、30分ほどでとんぼ返り。
アンブルサイドまで戻って、ブリッジ・ハウスなどを観た後、「滝」の表示につられて道を外れ、川沿いにふらふら歩いた。遠くには犬を散歩させている女の子も見える。大きな滝までは行き着けなかったが、小さな落差のあるところにはベンチもあり、涼しくて、生き返った。
今日も疲れてしまって、夕食はまたそのへんでサンドイッチを買ってすませてしまった。夜はなんだかさびしくて絵葉書を沢山書いた。伸びていた前髪が急に鬱陶しくなり、マニキュア用のアーミーナイフでばっさり切ってホテルの屑篭に捨てた。パンプスとワンピースも捨ててしまおうかという気になったが、思いとどまった。
8月17日 日曜日
とても悲しい夢を見て6:00すぎに目が覚めた。外は今日は曇っている。テレビをつけてみたが日曜なのでニュースもない。8:30に朝食、今朝ははっきり「イングリッシュブレックファスト、卵は目玉焼きで」と指定したので、いつもの朝ごはんが食べられた。しかも、ブラックプディングやマシュルームも付いて、けっこうおいしかった。夕食にもこれを出せばいいのに。
朝食のパンの残りを一枚ナプキンにくるんで持って出て、ホテルの前の桟橋で白鳥たちにやった。鳥はどこでもカワイイ。「道路の近くで白鳥に餌をやらないで!」と書かれた看板が出ていた。たぶん、餌に夢中になりすぎて車にひかれてしまうのだ。
10:15チェックアウト、提示された料金にはサービス料は含まれていない。普通チップとして5%から10%プラスするのが常識のようだが、このホテルに払う気はさらさら起らず、きっちりの料金でサインした。気のせいか、北へ来るにつれて、人々の態度が冷たいように感じてしまう。これから行くカーライルはさらに北。やや不安に思いながら、10:40ウィンダミア駅行きのバスに乗り込んだ。小雨が降り出した。
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